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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)78号 判決

フランス国

五一三二一 エペルネ、リュー・ド・レレクトリシテ 五四

原告

テクノマ

右代表者

パトリック・バリュー

右訴訟代理人弁理士

曽我道照

小林慶男

鈴木憲七

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 深沢亘

右指定代理人

市川裕司

歌門恵

松木禎夫

宮崎勝義

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六三年審判第二一五四七号事件について平成元年九月二八日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文一、二項と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

出願人 原告

出願日 昭和五七年一月六日(昭和五七年特許願第四六二号)

優先権主張 一九八一年一月六日フランス国

発明の名称 「植物および土壌の処理のために処理液体を噴霧する装置」

拒絶査定 昭和六三年七月二九日

審判請求 昭和六三年一二月一三日(昭和六三年審判第二一五四七号事件)

審判請求不成立審決 平成元年九月二八日

二  本願発明の要旨

水平又は傾斜した軸心まわりに回転する少なくとも一つの回転放散部材と、噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズルと、タンクから液体を吸い込むポンプと、噴霧される液体を邪魔しかつ中央下方を向いた特異な周辺出口開口を形成するように回転放散部材と接触することなく回転放散部材の周囲に沿って固着された一定又は調節できる角度の扇形状のコレクタと、コレクタにより集められた液体を処理液体のタンクに戻す装置とを備えた植物および土壌の処理のために処理液体を噴霧する装置。(別紙一参照。)

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項記載のとおり(特許請求の範囲第1項の記載と同じ。)である。

2  本願出願前日本国内において頒布された刊行物である実開昭四九-一四二一一号公報(以下、「引用例」という。)(別紙二参照。)には、傾斜した軸心まおりに回転する回転円板と、散布すべき液体を回転円板の中央部に噴射する液体注入口と、液体槽から液体を吸い込むポンプと、散布される液体を邪魔しかつ中央下方を向いた特異な周辺出口開口を形成するように回転円板と接触することなく回転円板の周囲に沿って固着され、摺動扉により窓の開口角度を調節できる有底円筒状外囲器と、該外囲器により集められた液体を廃液槽に戻す装置とを備えた液体散布装置が記載されている。

3  本願発明と引用例に記載されたものとを対比すると、両者は、傾斜した軸心まわりに回転する少なくとも一つの回転放散部材(引用例では回転円板)と、噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズル(引用例では液体注入口)と、タンク(引用例では液体槽)から液体を吸い込むポンプと、噴霧される液体を邪魔しかつ中央下方を向いた周辺出口開口を形成するように回転放散部材と接触することなく回転放散部材の周囲に沿って固着された調節できる噴霧遮蔽角度のコレクタ(引用例では有底円筒状外囲器)と、コレクタにより集められた液体をタンク(引用例では廃液槽)に戻す装置とを備えた処理液体を噴霧する装置(引用例では液体散布装置)の点で一致し、次の点で相違する。

相違点一 本願発明のコレクタが扇形状のものであるのに対し、引用例に記載されたものではそれが有底円筒状外囲器である点。

相違点二 本願発明がコレクタにより集められた液体を処理液体のタンクに戻しているのに対し、引用例に記載された事項では廃液槽に戻している点。

相違点三 本願発明が植物および土壌の処理のために処理液体を噴霧する装置であるのに対し、引用例に記載された事項では用途について明記されていない点。

4  次いで、前記相違点について検討すると、

(一) 相違点一について

本願発明の扇形状のコレクタは引用例に記載されたコレクタである有底円筒状外囲器とその作用、効果において格別相違するものではなく、前記形状の差異は当業者が適宜変更できる設計上の差異と認められる。

(二) 相違点二について

使用した処理液体を供給用タンクに戻し、再使用することは周知慣用の事項であるので、コレクタにより集められた液体を処理液体のタンクに戻すことは当業者が容易に考えられることである。

(三) 相違点三について

植物および土壌の処理のために処理液体を噴霧することは普通に行われているので、引用例に記載の処理液体を噴霧する装置を植物および土壌の処理のために用いることは当業者が容易に考えられることである。

5  そして、本願発明の構成全体によってもたらされる作用、効果について検討してみても、前記引用例に記載された事項並びに周知慣用の事項から当業者が普通に予測できる程度のものであって、格別のものは見当たらない。

6  したがって、本願発明は、前記引用例に記載された事項並びに周知慣用の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1は認める。同2は、引用例に記載された回転円板が傾斜した軸心まわりに回転するとの点、引用例に記載された液体注入口が散布すべき液体を回転円板の中央部に噴射するとの点、及び、引用例に記載された有底円筒状外囲器が中央下方を向いた特異な周辺出口開口を形成するように固着されているとの点は争い、その余は認める。同3は、一致点を、引用例記載の装置が「傾斜した軸心まわりに回転する回転放散部材(回転円板)」、「噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズル(液体注入口)」、及び、「中央下方を向いた周辺出口開口を形成するコレクタ(有底円筒状外囲器)」を備える点で本願発明と一致すると認定した点を争い、その余は認める。同4(一)及び(三)は争い、同(二)は認める。同5及び6は争う。

審決は、引用例の記載内容を誤認したため一致点の認定を誤り、また、相違点一及び三についての判断を誤り、その結果、本願発明の進歩性を誤って否定したものであるから、取消しを免れない。

1  引用例の記載内容の誤認による一致点の認定の誤り

(一)「傾斜した軸心まわりに回転する回転放散部材(回転円板)」について

(1) 引用例には、回転円板(回転放散部材)の回転が傾斜した軸心まわりで行われている液体散布装置が図示されているけれども、散布される液体の放射線からみて、この装置は回転円板を傾斜させることによって雨状として適用する処理液体の散布幅(散布角)を定めているものであって、本願発明において霧状として適用する処理液体を土壌や背の低い作物に適用できる範囲でする回転放散部材の傾斜とは本質的に相違している。

すなわち、引用例記載の装置においては、垂直方向から注入される処理液体に対して、回転円板を水平から傾ける(回転の軸心は垂直から傾斜する)ことによって、液体の到達距離、散布幅を決定しているものである。このような場合、回転円板の傾斜を大きくすることは、散布幅を狭めるばかりでなく、回転円板の液体同伴力を減じ(垂直になれば液体同伴力は零に近くなる。)、液体の充分な散布を不可能とし、同時に有底円筒状外囲器の底部に設けられた液体流出口の作用を不充分なものとする。また、回転円板の傾斜は液体注入口を有する導管によって機構的に制限されるものであるから、この回転円板の水平からの傾斜は大きく(回転円板を垂直に近く)することはできないものである。なお、この点につき、被告は、導管が取り付けられる蓋の穴に僅かな遊びを設ける等により、垂直の導管に対し有底円筒状外囲器及び回転円板をある程度傾斜させることができるし、導管を回転円板に追随させて同方向に傾斜させれば更に大きく傾斜させることもできるので、引用例記載の装置の回転円板の軸心の傾斜は垂直から僅かなものではない旨主張(後記)するが、引用例には、蓋の穴に僅かな遊びを設けることも導管を回転円板に追随させて同方向に傾斜させることも全く記載されておらず、そのような示唆もないので、このような主張は失当である。したがって、回転円板の回転の軸心の傾斜は垂直から僅かである。

以上によれば、引用例に開示されているものは回転円板の回転の軸心の傾斜を垂直から僅かに傾斜したものであるのに拘らず、「傾斜した軸心まわりに回転する」回転円板が記載されているとすることは、水平から僅かに傾斜した軸心まわりに回転するものまでも記載されているとすることになり、審決の認定はこの点で誤っている。

(2) 引用例に開示されている回転円板は、右のとおり、垂直から僅かに傾斜した軸心まわりを回転するものであるのに対し、本願発明の回転放散部材は、植物(特に背の低い作物に適する)や土壌の処理のための液体を噴霧する装置の回転放散部材であって、できるだけ低い位置に霧状の液体を散布することができる(上昇したり、風に流されないように)ように、コレクタのその中央が下方を向いた特異な周辺出口開口から処理液体を霧状で噴霧するために、水平又は傾斜した軸心まわりを回転するものであり、回転の軸心の傾斜は回転放散部材から噴霧される処理液体がコレクタのその中央が下方を向いた周辺出口開口から放射できる範囲である。すなわち、本願発明にいう「傾斜した軸心まわり」は水平から僅かに傾斜した軸心まわりの意味であって、垂直から僅かに傾斜した軸心まわりを含むものではない。

したがって、本願発明と引用例に記載のものとが傾斜した軸心まわりに回転する少なくとも一つの回転放散部材を備えた点で一致するとした審決の認定は誤っている。

(二) 「噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズル(液体注入口)」について

(1) 引用例の第3図(別紙二)において、回転円板に液体を供給する際に、液体注入口が回転円板のどの位置へ液体を注入するのか不明瞭であり、また、回転円板が傾斜する際に、液体注入口が中央から遠くなるように窓と反対側に中央を外して描かれており、引用例記載の装置が回転円板の中央あるいは中央部への液体の供給を意図しているものとは解されない。

また、引用例記載の装置は、液体の供給手段として、液体槽、ポンプ、液体槽とポンプを結ぶ導管及びポンプと液体注入口を結ぶ導管とを有しているにすぎず、例えば液体供給量(流量)を一定に調節する手段を有していないので、ポンプによって汲み上げられた液体を液体注入口から単に注出するのみで散布すべき液体を回転円板に噴射するものではない。なお、引用例には、液体注入口を有する導管が小口径であることの記載も示唆もない。

したがって、「散布すべき液体を回転円板の中央部に噴射する」液体注入口が引用例に記載されているとする審決の認定は誤りである。

(2) 引用例記載の装置は、右のとおり、液体注入口の回転円板に対する位置が不明瞭であり、かつ、液体注入口が散布すべき液体を噴出あるいは噴射するものではないのに対し、本願発明は、回転放散部材の中央部に噴霧すべき液体を噴射するノズルを備え、かつ、通常それに付随する液体の安定供給手段(その具体例としては、流路における膨脹可能なスリーブ、二つの連続したポンプのロータのローラを一二〇度ずらすこと)を備えている。したがって、引用例記載の装置の液体注入口は、液体を噴射したりノズルの役目を果たすものではないので、本願発明の液体を噴射するノズルに相当するものではない。

また、引用例記載の装置における液体注入口を有する導管はノズルの役割を果たすものとは考えられないから、引用例記載の装置は噴霧できることが自明とは解されない。

被告は、乙第二ないし第五号証を引用して、この種噴霧器において液体を回転放散部材の中央部に噴射することは本願出願前周知である旨を主張し、また、乙第六ないし第八号証を引用して、回転円板方式の液体散布装置により植物や土壌の処理液体を噴霧することは本願出願前周知である旨を主張するが、乙第二ないし第八号証はいずれも拒絶理由通知で通知されない新しい証拠であり、このような証拠に基づく新しい主張は許されるべきでない。

以上によれば、本願発明と引用例記載の装置とが噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズルを備えた点で一致しているとした審決の認定は誤っている。

(三) 「中央下方を向いた周辺出口開口を形成するコレクタ(有底円筒状外囲器)」について

(1) 前記のとおり、引用例記載の装置の回転円板は垂直から僅かに傾斜した軸心まわりを回転するのみであって、有底円筒状外囲器が回転円板と共に傾くとしても、有底円筒状外囲器の周辺出開口(窓)が中央下方を向くことのできないものである。なお、引用例の第2図(別紙二)には、廃液槽23と装置主要部20との間に導管25を設けることが記載されており、この廃液は自然と重力により廃液槽23に入るものと認めちれるので、この廃液の流れる方向が装置の下方であり、その方向とほぼ九〇度近い方向の出口開口は、下方というよりは前方というべきである。そして、装置の下方には電動機6を含む伝動装置が示され、同装置が仮に霧状で液体を散布できるとしても、その出口開口を本願発明のように土壌など低い位置に向けることは困難なものである。

したがって、「中央下方を向いた周辺出口開口を形成する」有底円筒状外囲器が引用例に記載されているとする審決の認定は誤りである。

(2) 引用例記載の装置の有底円筒状外囲器(コレクタ)は、右のとおり、その周辺出口開口の中央が下方を向くことのできないものであるのに対し、本願発明のコレクタの周辺出口開口はその中央が下方を向いているものである(なお、本願発明でいう「中央下方を向いた」は「その中央(二等分線)が下方を向いた」の意である。)。

したがって、本願発明と引用例記載の装置とが中央下方を向いた周辺出口開口を形成するコレクタを備える点で一致しているとした審決の認定は誤りである。

2  相違点一に対する判断の誤り

本願発明の扇形状のコレクタはその中央が下方を向いた周辺出口を形成するものであるのに対し、引用例記載の装置の有底円筒状外囲器は側方を向いた窓(周辺出口開口)を形成しているにすぎないから、本願発明の扇形状のコレクタと引用例記載の装置と有底円筒状外囲器とは、その周辺出口開口の点で相違している。したがって、両者は、その作用、効果において格別相違するものではなく、前記形状の差異は当業者が適宜変更できる設計上の差異と認められるとした審決の判断は誤りである。

3  相違点三に対する判断の誤り

引用例記載の装置は、回転円板より低い位置にある被処理物、すなわち、背の低い植物や土壌の処理のために利用するものではあるけれども、処理液体を雨状で散布するものであって、処理液体を霧状で噴霧するものではない。

仮に、引用例記載の装置が処理液体を霧状で噴霧できるとしても、有底円筒状外囲器の窓が下方を向いておらず、伝動装置(プーリ、ベルト)、駆動装置(モータ)、更には液体を供給する手段及び廃液槽をその下方に備えて回転円板が相当に高い場所に位置するものであって、霧状で噴霧された液体が被処理物に達するまでに、上昇したり、風に流されたりして、特に背の低い植物や土壌の処理に適するものということはできない。

したがって、引用例記載の装置を植物や土壌の処理のための噴霧装置として用いることが容易に考えられることではなく、この点に関する審決の判断は誤りである。

4  作用、効果の顕著性に対する認定の誤り

本願発明の作用、効果は、コレクタにより形成されるその中央が下方を向いた周辺出口開口の大きさをコレクタにより覆う角度(三六〇度-θ)を選択することにより、回転放散部材から外方に放射される液体量を調節し、通常のノズルから噴霧するより単位面積当り少量の液体をノズルの障害なしに実施できるものである(コレクタにより集められた液体は積極的にタンクに戻される。)。

これに対し、引用例記載の装置は、上方に支持された液体注入口から液体の供給される回転円板の外縁に対向する有底円筒状外囲器の細長い窓の開口度を調節して、液体の散布角度を調節(自由な散布幅の両端の散布量の不均一部分を除き、有底円筒状外囲器の底部に集められた廃液をタンクに戻すのがよい。)するものである。

したがって、両者の目的及び作用、効果は全く相違し、例えば、引用例記載の装置の回転円板の加速は処理液体をより遠方へ飛ばすために行われ、本願発明の回転放散部材の加速は処理液体の水滴をより細かくするために行われるものであって、前者のそれから後者のそれらが予測できるものではなく、両者の作用、効果についての審決の認定は誤っている。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決を取り消すべき違法はない。

二  引用例の記載内容の誤認による一致点の認定の誤りに対する主張

1  「傾斜した軸心まわりに回転する回転放散部材(回転円板)」について

(一) 回転円板を大きく傾斜させることにより液体の散布幅が下方に狭められたり、回転円板の液体同伴力を減じたりすることは本願発明においても同じであり、それにより低い位置の対象物にも散布できるものであるし、回転円板の高速回転により液体散布に必要な液体同伴力が付与されることも本願発明と差異はない。そして、本願発明においても軸心の水平軸からの傾斜角度についての限定はなく、引用例記載の装置も軸心の垂直軸からの傾斜角度についての限定はないものである。また、液体注入口を有する導管が取り付けられる蓋の穴に僅かな遊びを設ける等により、引用例の第2図(別紙二)に示されるように、垂直の導管に対し有底円筒状外囲器及び回転円板をある程度傾斜させることができるし、導管を回転円板に追随させて同方向に傾斜させれば更に大きく傾斜させることもできるので、引用例記載の装置の回転円板の軸心の傾斜は垂直から僅かなものではなく、審決の認定に誤りはない。

(二) 本願発明において、コレクタの周辺出口開口の中央が単に下方を向くからといって、回転放散部材の軸心の傾斜が水平から僅かであるとは限らず、また、背の低い対象物のみに液体を霧状散布するものとして明細書中に特に限定されているわけでもない。

本願発明の軸心が水平からどのように傾斜するかは限定されているものではないのに対し、引用例記載の装置の回転円板の軸心については前記のとおりであるから、両者の軸心の傾斜に関して格別な差異はなく、審決の認定に誤りはない。

2  「噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズル(液体注入口)」について

(一) 引用例の第1図及び第3図(別紙二)には、液体注入口が回転円板の周辺部にではなく、その中央部を占める領域に対向している点が示されている。液体注入口の導管を回転円板と共に傾斜させる場合には、液体注入口の回転円板に対向する位置は変わらず、また、引用例の第2図(別紙二)において導管を傾斜させないで回転円板のみを傾斜させる場合には、導管は有底円筒状外囲器の蓋の穴を支点として回転円板と蓋に対して相対的に回動し、その液体注入口が回転円板の更に中央部に指向することもあり、回転円板の遠心力により外周方向に均等に分散させるという目的からみても、遠心力が四方に均等に働く回転円板の中央部に液体を供給するものである。

また、乙第二ないし第五号証には噴霧すべき液体をノズルにより回転放散部材の中央部に噴射するものがそれぞれ記載されているように、この種噴霧器において液体を回転放散部材の中央部に噴射することは本願出願前周知である。しかも、引用例記載の装置では、引用例の第3図(別紙二)に示されるように、回転円板の周囲より外方に分散、散布できる液体量に比して該液体量を供給する液体注入口の口径が比較的小さいので、該液体量を供給するために同図に示されたポンプにより該液体を加圧し小口径の液体注入口より比較的高速度で噴射できるように構成されているものである。また、引用例記載の装置において液体供給量を調節する手段がポンプや導管に設けられている点も、均一散布の目的からみて、自明のことである。

(二) 前記のとおり、この種噴霧器において液体を回転放散部材の中央部に噴射することは本願出願前周知であり、引用例記載の装置は散布すべき液体を回転放散部材の中央部に小口径の液体注入口より供給するものであるから、引用例の小口径の液体注入口を有する導管はノズルの役割を果たし、本願発明のノズルと同等のものと解される。しかも、本願発明の「中央部」は、別紙一の第1図及び第2図に回転放散部材6の中央付近のやや広がりのある領域6cとして示され、その広がりについて特に限定されていないので、回転放散部材の中央部に噴射する点に関し両者に格別の差異はない。

また、回転円板方式の液体散布装置により植物や土壌の処理液体を噴霧することは、乙第六ないし第八号証にそれぞれ記載されているように、本願出願前周知であるので、引用例記載の装置が回転円板の回転速度や液体の粘稠性や供給量等に応じて比較的細かい液滴で植物や土壌の処理液体を噴霧できる点は自明であり、更に引用例の明細書である乙第一号証の「液体を散布する方式にはスプレーガン等を用いる噴霧方式と回転円板を用いて遠心力で散布する方式とがある。特に後者の回転円板方式は粘稠性の液体を広範囲に散布するのに好適で、このような用途に広く用いちれている。」との記載からも、引用例記載の装置がスプレーガン等を用いる噴霧方式の代替手段として同様の噴霧ができる点は裏付けられる。

したがって、審決の判断に誤りはない。

3  「中央下方を向いた周辺出口開口を形成するコレクタ(有底円筒状外囲器)」について

引用例記載の装置の回転円板の軸心の傾斜については前記のとおりであり、その有底円筒状外囲器の側面の出口開口が中央下方を向くことは引用例の第2図(別紙二)に明示されているので、審決の認定に誤りはない。

三  相違点一に対する判断の誤りについて

本願発明の扇形状のコレクタと引用例記載の装置と有底円筒状外囲器とは、その周辺出口開口の点で相違しないことは前記のとおりであるから、両者は、その作用、効果において格別相違するものではなく、形状の差異は当業者が適宜に変更できる設計上の差異であるとした審決の判断に誤りはない。

四  相違点三に対する判断の誤りについて

引用例記載の装置が処理液体を霧状で噴霧できること、同装置の有底円筒状外囲器の窓が下方を向くことは前記のとおりであり、また、回転円板の高さは液槽22、23の配置や大きさあるいは導管24、25の長さや方向を変える等により適宜調節できるので、引用例記載の装置を植物や土壌の処理のための噴霧装置として用いることは当業者が容易に考えられるとした審決の判断に誤りはない。

五  作用、効果の顕著性について

周辺出口開口の大きさをコレクタにより覆う角度を選択することにより、液体の損失を生じることなく、回転放散部材から外方に放射される液体量を調節できる点は、引用例記載の装置の方がむしろ有底円筒状外囲器の細長い窓の開口度を自在に調節することにより本願発明の一定角度の扇形状のコレクタの場合よりも液体量や散布角度を適切に調節できるものといえるし、また、引用例記載の装置が処理液体を噴霧できる点は前記のとおりであるので、単位面積当り少量の処理液体を噴霧でき、その回転円板の加速により処理液体の水滴をより細かくできるという作用、効果も普通に予測できる程度のものであって、格別相違するものではない。

したがって、審決の認定に誤りはない。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本願発明の概要

成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明の願書、明細書及び添付図面。以下、「本願明細書」という。)によれば、本願発明は、処理液体、特に植物や土壌の処理のための液体を噴霧する装置に関するものであること、従来の噴霧装置は、単位面積当り比較的少量の液体を噴霧する場合には、ノズルの直径を小さくし各ノズルにより噴霧される液体の供給を減少させて行うものであるが、特に多少の処理物質を含む液体の噴霧の場合には、急速に制限され、実際にノズルの障害を起こす相当の危険があること、しかるに、本願発明の要旨の構成に従った噴霧装置は、単位面積当り少量の処理液体、特に四〇リットル/ヘクタール又はそれ以下の少量を噴霧できる大きな利点を提供するものであること、同装置によれば、コレクタにより遮られて集められる液体の水滴が処理液体のタンクに戻されるので、液体の損失を生じることなく、環状扇形のコレクタにより覆われる角度の適宜な選択と単位時間当りの各回転放散部材により放射される液体の量を減少するようにできること、本願発明は、農業、特に背の低い作物用の多数の回転放散部材を有した移動噴霧装置を実用化でき、本願発明に従った移動噴霧装置は、処理すべき植物の方向に各回転放散部材により噴霧される液体を搬送するよう方向付けられる空気の流れを生じる一つ又は複数のブロワを設けることによって木やぶどうの処理を容易に行うことができるものであることが認められる。

三  審決の取消事由に対する判断

1  引用例の記載内容の誤認による一致点の認定の誤りの主張に対する判断原告は、引用例の記載内容についての審決の認定のうち、引用例に記載された回転円板(これが本願発明における回転放散部材に相当することは、原告も争わない。)が傾斜した軸心まわりに回転するとの点、引用例に記載された液体注入口が散布すべき液体を回転円板の中央部に噴射するとの点、及び、引用例に記載された有底円筒状外囲器(これが本願発明におけるコレクタに相当することは、原告も争わない。)が中央下方を向いた特異な周辺出口開口を形成するように固着されているとの点は争い、また、本願発明と引用例記載の装置との一致点に関する審決の認定のうち、引用例記載の装置が「傾斜した軸心まわりに回転する回転放散部材(回転円板)」、「噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズル(液体注入口)」、及び、「中央下方を向いた周辺出口開口を形成するコレクタ(有底円筒状外囲器)」を備えないにもかかわらず、これを備えるとして本願発明との一致点と認定した点を争うので、その当否について判断する(なお、右以外の引用例の記載内容についての審決の認定及び本願発明と引用例記載の装置との一致点に関する審決の認定が相当であることについては、当事者間に争いがない。)。

(一)  「傾斜した軸心まわりに回転する回転放散部材(回転円板)」について

(1) 引用例に、回転円板の回転が傾斜した軸心まわりで行われている液体散布装置が図示されていることは、原告も認めるところである。

ところで、引用例記載の装置における回転円板の傾斜角度については、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によるも、引用例にこれを限定する記載は見当たらない。そして、成立に争いのない乙第一号証(引用例記載の考案の願書添付の明細書及び図面)(以下、「引用明細書」という。)によれば、引用明細書には、引用例記載の装置における回転円板の傾斜角度に関して「円板1は外周部に低い突縁2を有し、水平面に対して傾斜して支持されている。この傾斜角は散布幅を決定する。」との記載(三頁四行ないし七行)及び「対象物の大きさによって自由に散布幅を変更することができる。」との記載があること(五頁一八行ないし一九行)、回転円板の回転が傾斜した軸心まわりで行われている液体散布装置が図示されている第2図について「第2図はこの考案による装置の配置の一例を示す図である。」との記載があること(四頁六行ないし七行)が認められ、これらの記載からすれば、引用例記載の装置における回転円板の回転の軸心の傾斜は垂直から僅かであるものに限定されるとすることはできない。

(2) 一方、これを本願発明についてみるに、本願発明の構成は、前記の本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載と同じ。)のとおりであって、軸心が傾斜している場合の傾斜の程度については何ら限定がなく、前掲甲第二号証の一によるも、本願明細書にも「傾斜した軸心」の定義や意味に関する記載は見当たらない。

なお、本願発明は、農業、特に背の低い作物用の多数の回転放散部材を有した移動噴霧装置を実用化できるものであることは前記二に認定したとおりであるところ、本願発明が背の低い作物や土壌を対象物としている場合には、液体を霧状散布するにあたり回転放散部材の軸心は水平又は水平に近い傾斜であることがその構成からみて有効であると解されるが、本願発明は背の低い作物や土壌のみを対象とするものではなく、木やぶどうの処理をも対象とするものであることは前記二に認定したところから明らかであり、木やぶどうは必ずしも背の低い作物には該当しないから、この場合には液体を霧状散布するにあたり回転放散部材の軸心を水平からかなり傾斜させることもありうるものと解される。

したがって、本願発明における回転放散部材の軸心が傾斜している場合の傾斜の程度は水平から僅かであると限定することはできず、軸心の傾斜が水平からかなり傾斜させる場合も含まれると解するのが相当である。

(3) 以上によれば、引用例記載の装置と本願発明とでは、軸心の傾斜に関して格別な差異はないものと認められ、引用例に記載された回転円板が傾斜した軸心まわりに回転すると認定したうえで、両者は傾斜した軸心まわりに回転する少なくとも一つの回転放散部材(引用例では回転円板)を備えた点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

(4) 原告は、引用例記載の装置における回転円板の傾斜を大きくすることは、散布幅を狭めるばかりでなく、回転円板の液体同伴力を減じ、液体の充分な散布を不可能とする旨主張するが、回転円板を大きく傾斜させることにより液体の散布幅が下方に狭められたり、回転円板の液体同伴力を減じたりすることは本願発明においても同じであり、それにより低い位置の対象物にも散布できるものであるし、回転円板の高速回転により液体散布に必要な液体同伴力が付与されることも本願発明と差異はなく、原告の右主張は理由がない。

また、原告の、引用例記載の装置における回転円板の傾斜を大きくすることは有底円筒状外囲器の底部に設けられた液体流出口の作用を不充分なものとする旨の主張は、回転円板の傾斜を大きくした場合にも、液体流出口の位置を有底円筒状外囲器の底部上の最も低い位置となるように配することで充分に対処できるものであるから、同主張も理由がない。

回転円板の傾斜は液体注入口を有する導管によって機構的に制限される旨の原告の主張は、引用例の第2図(別紙二)に示された構成に基づいた主張であると解されるところ、引用明細書には、第2図について「第2図はこの考案による装置の配置の一例を示す図である。」との記載があることは前認定のとおりであって、右第2図に示された構成は引用例の一実施例にすぎず、原告の右主張は単なる一実施例に基づく主張として失当である。そして、引用例記載の装置において、回転円板の傾斜角度が限定されないとすれば、導管を回転円板の傾斜に追随させて同方向に傾斜させることは設計上当然の事柄であり、原告の右主張はこの点からも理由がない。

更に、原告は、本願発明におけるコレクタの周辺出口開口はその中央が下方を向いているところから本願発明にいう「傾斜した軸心まわり」は水平から僅かに傾斜した軸心まわりの意味である旨主張するが、本願発明において、軸心が完全に垂直になる場合には、回転放散部材が完全に水平となりコレクタの周辺出口開口も真横を向くことになるから、その中央が下方を向いているとはいえないものでおるが、軸心が垂直から多少でも傾斜していれば、コレクタの周辺出口開口をその中央が下方を向いているように構成することは可能であり、原告の右主張も理由がない。

以上、原告の各主張は、いずれも「傾斜した軸心まおりに回転する」点についての審決の認定が相当であるとした前記判断を覆し得るものではない。

(二)  「噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズル(液体注入口)」について

(1) 前掲甲第三号証によれば、引用例記載の装置は散布すべき液体を回転円板の中央部に液体注入口より注入供給するものであることが認められるところ、いずれも成立に争いのない乙第二号証(実公昭四一-二二三六〇号公報)(一頁左欄下から六行ないし右欄一一行)、同第三号証(実公昭三二-一三三八〇号公報)(一頁左欄下から六行ないし右欄一行)、同第四号証(実公昭二八-九七五八号公報)(一頁左欄一四行ないし二〇行)及び第五号証(実公昭四二-五一七一号公報)(一頁左欄一五行ないし二〇行)によれば、引用例記載の装置と同種の噴霧器において散布すべき液体をノズルにより回転放散部材の中央部に噴射することは本願出願前周知の態様であることが認められるから、仮に引用例には液体注入口を有する導管が小口径であることの記載又は示唆が認められないとしても、引用例記載の装置における右液体注入口も、右周知態様と同様、散布すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズルの役割を果たしているものと認めるのが相当であり、引用例に記載された液体注入口は散布すべき液体を回転円板の中央部に噴射するとした審決の認定に誤りはない。

なお、前掲甲第三号証の第1ないし第3図(別紙二)によれば、引用例記載の装置における液体注入口は、必ずしも回転円板の中心位置に正確に対向して配置されていないことが認められるが、前掲甲第二号証の一(九頁一七行ないし一九行、図1及び2)によれば、本願発明における円筒形のノズル8が向い合いに開口している回転放散部材6の中央部6Cも回転放散部材の中央付近のやや広がりのある領域として図示されていることが認められ、かつ、中央部の広がりについては特に限定が認められないから、回転放散部材の中央部に噴射する位置に関して本願発明と引用例記載の装置との間に格別の差異は認められない。

(2) ところで、引用例記載の装置における右液体注入口も散布すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズルの役割を果たしていることは前認定のとおりであるところ、審決は、本願発明と引用例記載の装置との一致点として、両者は「噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズル」を備えていると認定するので、更に、引用例記載の装置における「散布」と本願発明の「噴霧」とが同義と認め得るか否かにつき検討する。

前掲甲第三号証によれば、引用例には同記載の装置における「散布」の意義に関する記載はなく、引用例のみからは右「散布」が本願発明における「噴霧」に該当するか否かは必ずしも明白ではない。しかしながら、いずれも成立に争いのない乙第六号証(実願昭五二-一六五六二五号の願書、明細書及び図面、並びに、昭和五三年五月一八日付手続補正書のマイクロフィルム)、同第七号証(特開昭五二-一〇七九七三号公報)及び同第八号証(特開昭五〇-一五六七三号公報)によれば、回転円板方式により植物や土壌に処理液体を散布する液体散布装置において、処理液体を霧化して噴霧するように散布し得ることは本願出願前周知の技術であることが認められ、したがって、引用例記載の装置の場合にあっても、引用例には単に「散布」とのみ記載されているとしても、右「散布」には処理液体を霧化して噴霧するように散布する態様をも含むものであると解するのが相当である。なお、前掲乙第一号証によれば、引用明細書には「液体を散布する方式にはスプレーガン等を用いる噴霧方式と回転円板を用いて遠心力で散有する方式とがある。特に後者の回転円板方式は粘稠性の液体を広範囲に散布するのに好適で、このような用途に広く用いられている。」との記載のあることが認められるところ(一頁一七行ないし二頁一行)、同記載によれば、引用例においてスプレーガン等を用いる噴霧方式と回転円板を用いて遠心力で散布する方式とを同等の液体散布方式として捕えていることが認められ、引用例記載の装置における「散布」が処理液体を霧化して噴霧するように散布する態様を念頭に置いていることは明らかである。

以上によれば、引用例記載の装置における「散布」と本願発明の「噴霧」とは同義であると認め得るのが相当である。

3  よって、引用例に記載された液体注入口は散布すべき液体を回転円板の中央部に噴射すると認定したうえで、本願発明と引用例記載の装置とは、噴霧すべき液体を回転放散部材の中央部に噴射するノズルを備えた点で一致しているとした審決の認定に誤りはない。

なお、原告は、乙第二ないし第八号証はいずれも拒絶理由通知で通知されない新しい証拠であり、このような証拠に基づく新しい主張は許されるべきでない旨主張するが、右乙号各証は、本願出願前における当業者の技術常識を立証し、これによって本願発明と対比された引用例記載の発明の意義を明らかにしようとするものであり、また、右乙号各証に基づく被告の主張も、これらの技術常識に基づいて引用例の記載内容に関する審決の認定の正当性を主張するものであるから、本件訴訟における右乙号各証の提出及びこれに基づく被告の右主張が許されないわけではなく、この点に関する原告の主張は採用することができない。

三  「中央下方を向いた周辺出口開口を形成するコレクタ(有底円筒状外囲器)」について

1  引用例記載の装置における回転円板の傾斜角度については、引用例にこれを限定する記載は見当たらず、同回転円板の回転の軸心の傾斜は垂直から僅かであるものに限定されるとすることはできないことは前認定のとおりである。したがって、引用例記載の装置において、軸心が完全に垂直になる場合には、回転円板は完全に水平となり有底円筒状外囲器の周辺出口開口が真横を向くことになるから、その中央が下方を向いているとはいえないものであるが、軸心が垂直から多少でも傾斜していれば、有底円筒状外囲器の周辺出口開口をその中央が下方を向いているように構成することは可能であり、その軸心を更に水平にまで近付ければ有底円筒状外囲器の周辺出口開口の中央がほぼ下方を向いているような構成となることは明白であるから、引用例記載の装置が、有底円筒状外囲器の周辺出口開口の中央が下方を向いている構成を包含するものであると認めることができる。そして、本願発明でいう「中央下方を向いた」は「その中央(二等分線)が下方を向いた」の意であることは原告も争わないところであるから、本願発明と引用例記載の装置とが中央下方を向いた周辺出口開口を形成するコレクタを備える点で一致しているとした審決の認定に誤りはない。

(2) なお、原告は、引用例の第2図(別紙二)の、廃液槽に廃液を流す導管25の記載状況からみて、また、同図の電動機6を含む伝動装置の示されている状況からみて、引用例記載の装置における有底円筒状外囲器の周辺出口開口の中央が下方を向いていると認めることはできない旨主張する。しかしながら、前掲甲第三号証によれば、引用例の実用新案登録請求の範囲には、回転円板の傾斜や位置の高さ、液体流出口及び回転円板を駆動する手段の具体的構造についての限定的記載はなく、図面の簡単な説明の欄に「第2図はこの考案の液体散布装置の配置図である。」と記載されていることが認められるから(一頁左欄六行ないし七行)、引用例の第2図は引用例記載の装置の単なる一実施例を記載したものであると解するのが相当であり、原告の右各主張は、引用例記載の装置の単なる一実施例に基づく主張であるから採用し得るものではない。

(四) 以上によれば、引用例の記載内容の誤認による一致点の認定の誤りに関する原告の主張は、いずれも理由がなく、この点に関する審決の認定に誤りはない。

2  相違点一に対する判断の誤りの主張についての判断

本願発明の扇形状のコレクタと引用例記載の装置の有底円筒状外囲器とはその周辺出口開口の中央が下方を向いた周辺出口を形成する点で一致することは、三1(三)に認定したとおりである。相違点一に対する審決の判断の誤りをいう原告の主張は、両者が相違することを前提とした主張であるから理由がなく、両者がその周辺出口開口の点で相違しない以上、その作用、効果において格別相違するものではなく、形状の差異は当業者が適宜に変更できる設計上の差異であると認めるのが相当であり、この点に関する審決の判断に誤りはない。

3  相違点三に対する判断の誤りの主張についての判断

回転円板方式により植物や土壌に処理液体を散布する液体散布装置において、処理液体を霧化して噴霧するように散布し得ることは本願出願前周知の技術であり、引用例記載の装置における「散布」には処理液体を霧化して噴霧するように散布する態様をも含むものであると解するのが相当であることは前認定(三1(二)(2))のとおりである。また、引用例記載の装置の有底円筒状外囲器の周辺出口開口(窓)が下方を向いていること、及び、引用例の第2図は引用例記載の装置の単なる一実施例を記載したものであると解するのが相当であることは、いずれも前認定(三1(三))のとおりである。そうすると、引用例記載の装置を、引用例の第2図に示されたものに限定されることなく、その回転円板の高さを液体槽22及び廃液槽23の配置や大きさ、導管24、25の長さや方向を変える等により適宜調節して、回転円板を土壌などに向けて低い場所に位置させることは、当業者が適宜なし得る設計的な事項にすぎないというべきである。

したがって、引用例記載の装置を植物や土壌の処理のための噴霧装置として用いることは当業者が容易に考えられるとした審決の判断に誤りはない。

4  作用、効果の顕著性の主張に対する判断

原告は、引用例記載の発明に対する本願発明の作用、効果の顕著性として、〈1〉本願発明は、コレクタにより覆う角度(三六〇度-θ)を選択することにより、回転放散部材から外方に放射される液体量を調節し、通常のノズルから噴霧するより単位面積当り少量の液体をノズルの障害なしに実施できる点、〈2〉引用例記載の装置の回転円板の加速は処理液体をより遠方へ飛ばすために行われるのに対し、本願発明の回転放散部材の加速は処理液体の水滴をより細かくするために行われるものである点を主張する。

まず、〈1〉の点についてみるに、両発明の一致点に関する審決の認定に誤りがないことは既に説示したとおりであるから、本願発明と引用例に記載された装置とは、噴霧される液体を邪魔しかつ中央下方を向いた周辺出口開口を形成すもように回転放散部材と接触することなく回転放散部材の周囲に沿って固着された調節できる噴霧遮蔽角度のコレクタ(引用例では有底円筒状外囲器)を備えた処理液体を噴霧する装置(引用例では液体散布装置)の点で一致するものであるところ、右〈1〉の作用、効果は、右構成をのうち噴霧遮蔽角度の調節できるコレクタ(引用例では有底円筒状外囲器)を備えた構成を採用したことによる作用、効果であることが明らかであるから、引用例記載の装置においても同様の作用、効果が期待できるものと認めるのが相当であり、右〈1〉の作用、効果をもって、本願発明の顕著な作用、効果とすることはできない。

次に、〈2〉の点についてみるに、引用例記載の装置が処理液体を噴霧できる点は苗認定のとおりであり、引用例記載の装置においても、本願発明と同様、その回転円板の加速により処理液体の水滴をより細かくできるという作用、効果を奏するであろうことは、当業者の技術常識からみて普通に予測できる程度のものであって、格別のものとすることはできない。

したがって、本願発明の奏する作用、効果につき、引用例に記載された事項並びに周知慣用の事項から当業者が普通に予測できる程度のものであって、格別のものは見当たらないとする審決の認定に誤りはない。

5  以上によれば、審決の引用例の記載内容及び一致点の認定、並びに、相違点一及び三に関する認定、判断に誤りはなく、また、本願発明が特に予期し得ない格別の作用、効果を奏すると認めるべき事情も見当たらないから、審決の取消事由に関する原告の主張は理由がないものといわざるを得ない。

四  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用負担及び附加期間の定めにつき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、同法一八二条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

別紙一

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙二

〈省略〉

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